結局のところ、いちばん楽しいのは0次会だったりする。

ぼんやり想う

親愛なる酒呑みの皆さんは、呑み会のなどの前に「0次会」を行うことがあるだろうか。ここで私が言う0次会とは、誰かとお酒を呑む(1次会)前に、フライングしてひとりでお酒を呑んでしまうことを指す。これから人とお酒を呑むのに、あらかじめお酒を呑んでから行くの?きっと、しっかりとした常識と教養を持ち合わせている人なら、そのような疑問が思い浮かぶのは当然だろう。そうです、これから人とお酒を呑むのに、あらかじめお酒を呑んでから行くのです。それが私たち酒呑みの抗うことのできない性であり、その行為はむしろ、私たちにとっては極上の楽しみと言っても過言ではないのだ。

意外と深い?酒呑みと0次会の関係性

2024年11月、X(旧Twitter)にてタイトルどおりの投稿をしてみたところ、3800件を超えるいいねと50件近いコメントをいただいた。人と呑む前にあらかじめ酒を入れていくなんて、こんなことやっているのは私を含めごく少数だろう、しかもその行為がいちばん楽しいだなんて思っているのはきっと私くらいなものだろう、そんなふうに思っていた。それなのに蓋を開けてみればなかなかの反応が得られ、コメント欄では多くの方の賛同と共感の声をいただいた。

「わかる」「よくやっている」というたくさんの声のほか「それを言ってしまっては…」「これから会う人に失礼」という真っ当な意見もちらほら。また「秋田ではそれを『乾杯の練習』という」といった私にとっては新しい知識をご教授いただけたものもある。乾杯の練習という言葉があるくらいなのだから、世の酒呑みはけっこうな確率で0次会をやっているのかもしれない。脳がアルコールに浸されている人間の考えることなんて、きっとみんな同じようなものなんだろう、なんて自分勝手に背負っていた肩の荷が降りたような心地がしたものだった。

人と呑むより0次会が楽しい理由を考える


ひとりで行う0次会が酒呑み界隈では定番化しているとして、その0次会が人と呑むより楽しいと感じてしまうのはいったいどういった心持ちなのだろうか。

このブログを読んでくれている方ならお分かりのとおり、私は趣味というかライフワークのひとつとして、ひとり酒場でお酒を呑むことを楽しんでいる。しかしだからといって、人と顔を突き合わせてお酒を呑むことが嫌いなわけではもちろんない。むしろ気のおけない仲間や尊敬する人とのお酒の場には、自ら積極的に参加したいとさえ思っている。それでも、それでもやっぱり「今日は0次会できるな」と考えたときのワクワク感や、実際に0次会を行っている最中の心地よさは、人との呑み会以上に楽しいと感じる。その理由についていろいろと考えを巡らせてみた。

人と呑む予定が、ひとり呑みの罪悪感を浄化する


理由としてひとつ考えられるのが「このあと人と会って呑むんだという安心感があるから、孤独な時間に没頭できる」ということかもしれない。ひとり酒場で呑むという行為には、私の場合すこしの罪悪感のようなものが付きまとう。この姿を誰か知り合いに見られたいとは思わないし、誰とも話さず、ひとりの酔客として匿名の存在のまま密やかに時間とお酒を楽しみたいと願う。でも、このあと人と会って酒を呑む、それまでの時間をただこうして潰しているだけなんだと思うだけで、ひとり呑みの罪悪感から開放されるような心地がするのだ。ひとりで呑むという行為に対して、立派な言い訳が成立する。この安心感の中で呑むひとり酒がいつも以上に美味しく感じられ、ひとりだけの自由な時間がより楽しくなると思っている。

いちばん楽しいのは、まだ何も始まっていない時間


0次会が楽しいと感じるもうひとつの理由は、実際に人と会い、めでたく1次会がはじまった後にもあるような気がする。相手が誰であれ、どのようなタイプの呑み会であれ、いざ1次会がはじまればそこにお決まりの流れや役割が発生する。1杯目のお酒を注文し、おつまみを注文し、乾杯をしてから近況の報告や仕事の話、他愛のない話へと流れていく。同時並行で、メニューをまとめる人、場を盛り上げる人、話題を振る人、聞き役に回る人、たくさん呑む人、たくさん食べる人、酔いつぶれる人、介抱する人、会計をまとめる人などなど、その場にいるそれぞれにある程度の役割が分担されるのだ。もちろん、それこそが呑み会であり、それが楽しいのだということは理解している。

しかし、それに比べて0次会の自由さはどうだろう。何も決まっていない、何をしてもいい、気を使う必要もない。この余白にも似た軽やかで豊かな時間は、0次会でしか体験できないものだ。まだ何もはじまっていない、これこそが0次会の最大の魅力であり、私たち酒呑みを引き付けてやまない理由なのではないかと思う。

0次会と1次会は相互補完の関係性

ここまでつらつらと述べてきたわけだが、結局のところ、お酒の場はいつだって楽しいのである。楽しいものでなければいけない。0次会のほうが楽しいという思いは心の奥底の本音として、やっぱり1次会が待っているから0次会が楽しくなる、0次会があるから1次会に気持ちよく入っていける、という補完関係が成立させなければならないと思う。人とのコミュニケーションや関係性を円滑に、より深いものに。さらに自分の時間や心地よさにも貢献してくれる。お酒ってやっぱりいいよね。うん。