良い酒場ってなんだろう。どんな酒場なら、良い場所だと思えるのだろう。これまでにさまざまな店を渡り歩いてきてぼんやりと思うのは「客と店の双方が幸せになれるためのルールやシステムが、しっかりと確立している店」こそが良い酒場なのではないかということ。数多くの酒場が軒を連ねる赤羽においてランドマーク的な存在感を発揮する「鯉とうなぎのまるます家 総本店」は、まさにそんな「良い酒場」の筆頭と呼んで差し支えない店だろう。
創業は昭和25年、朝から呑めるランドマーク「まるます家」
JR赤羽駅東口を出て、目の前に広がるロータリーを左に折れて一番街商店街へ。さまざまな飲食店が連なる商店街を道なりにまっすぐ進むと、やがて赤羽のランドマークとも言うべき「まるます家」がその雄姿を見せる。創業は昭和25年、実に70年以上にわたり、この場所で数多の飲兵衛たちを受け入れてきたんだなぁ、なんて思いを馳せると感慨もひとしお。もちろん今でも開店前に行列ができる人気店。歴史に胡座をかくことなく、しっかりと現役で努力を続けていることの証左だろう。開店は驚きの朝9時、朝から酔ってしまいたい人も、夜勤明けの人も問題なく受け入れてくれる。
川魚をメインに、常時100種類近くのお品書きが並ぶ。
鰻、鯉、なまず、どじょうなど、川魚系をメニューの中心に据えながら、肉も野菜も揚げ物も、常時100種類近くがラインナップされているというまるます家。加えて季節の旬をそろえたお品書きもそろっているというのだから、目移りしてしまうこと必至だろう。白い短冊に朱色で描かれたさまも壮観。
ドリンク系はサッポロの瓶ビールと生ビールを皮切りに、焼酎、ウイスキー、ワイン、日本酒と幅広く、そつなく取り揃えられている。後述するが、まるます家を訪れる多くのお客さんが注文するのは容量1リットルのジャンボチューハイボトル、その名も「ジャン酎」だ。
名物「ジャン酎」をお供に、名店ならではのおつまみを味わう
カウンター席に落ち着くなり、まずは先ほどから登場している名物「ジャン酎(1100円)」をオーダー。「ジャン酎」とは「ハイリキ」のブランド名で販売されている瓶入りチューハイのこと。まるます家では1リットルのジャンボサイズで売られていることから「ジャンボ酎ハイ」を省略して「ジャン酎」と呼ぶのだそう。また今回はプレーンのまま呑んだが、これに生ライムとミントがセットになった「モヒート(100円)」を追加すると、さらに爽やかな味わいに。
「ジャン酎」のスペックがこちら。容量は1リットルで、アルコール度数は7%。飲兵衛の皆さんにとってはまだまだ呑める量かもしれないし、これを呑み干してほろ酔いになったくらいでストップするのが丁度いい量かもしれない。
まるます家ならではのメニューとして「鯉あらい(400円)」を注文。冷水でしめた鯉を酢味噌で味わうと、臭みなどまったくなく、それでいて海の白身魚とは違う野性味のようなものが感じられる。鯉のメニューは他にも鯉生刺、鯉こく、うま煮などがあり、専門店の意気込みを強く感じる。
まるます家の定番メニューのひとつ「たぬき豆腐(500円)」。豪華な冷奴といった風情だが、これがけっこう病みつきに。いつかきっと家での再現に挑戦することだろう。
おそらく季節メニューの一環と思われる「キノコおろし(450円)」。キノコを大根おろしにからめて口に放り込むと、これが意外と合うんだなあ、と関心しきり。
シメの一品としてオーダーしたのかもしれない「メンチかつ(650円)」。写真では伝わりづらいかもしれないが、これが意外なほどのどっしりサイズでトンカツが来た?と一瞬焦るほどのボリューム。しかもジューシーで美味、かなりのお得感を感じることができる。
紳士ばかりではないが、悪い人はいない。不思議に落ち着く空間
一旦箸を置いて、店内をゆっくりと見渡してみる。1階のカウンター席に陣取るお客さんのほとんどが男性だ。上品な着こなしの紳士がいるかと思えば、長年の苦労が伝わってくるような男性もいる。女性客は1割くらいだろうか、それもそのすべてが男性とのふたり連れ。それぞれが思い思いにお酒を楽しみ、これ以上ないくらいに楽しそうにしている。当然、店内はガヤガヤとしているわけなのだが、他の酒場と違う点は、これだけの会話が飛び交っているのにも関わらず、不思議なほど落ち着ける空間であるということだ。
あくまでも推測の域を出ないのだけれど、このまるます家独特の空気感を作り上げているのは、かの「独特なルール」なのではないかと考える。「酒は3杯まで、酔って入店しない」。客の全員がシラフで入店し、3杯以下の酒しか呑んでいないのだから、当然、泥酔している客はいないし、タガが外れたように大声で話す客もいない。みんな楽しそうにしているけれど、場の雰囲気を壊す要素はなにひとつない。店の空気を保つために店がルールを設定し、客はそのルールをしっかりと守る。この人と人との信頼関係が、70年以上も続く酒場を守り続けてきたし、今も行列が絶えない名店としての地位を作り上げているのだろう。
店を出たら、またすぐに戻ってきたくなる店
ガヤガヤしているのに落ち着いて呑める、その例えようのない感覚に包まれながら、会計を済ませて店を出た。いい店だったなぁ、と振り返るのと同時に、次はいつ来ようかと思い巡らせている自分に気づく。私がそうなのだから、きっと多くの人が同じように、まるます家への愛着を感じているのだろう。週に何度も、文字通り毎日のように足を運んでいる人もいるという話も誇張などではなく、普通の、ただの日常の風景なのだろう。またすぐに戻ってきたい、そんな思いを胸に赤羽駅へと歩を進めた。
店名/鯉とうなぎのまるます家 総本店
住所/東京都北区赤羽1-17-7
電話/050-5890-2386
営業時間/11:00~19:00(LO.18:30)
定休日/月曜(第2か第3の月曜・火曜で連休の可能性有)※本記事は筆者訪問日(2021年10月)時点の情報をもとに作成しています。
※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があります。
※充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いします。
※飲酒は20歳になってから。お酒は楽しく適量で。