酒呑みの心は、いつだって繊細なのだ。美味しい酒が呑みたい、でも今日は新しい店に突撃する気力は残っていない、でも美味しい酒が呑みたい、できればビールと餃子がいいな…。まるで思春期の少年のように、常に揺れ動くこの心をどうしてくれようか。そんな時に、ふと脳裏をかすめる店を持ち合わせている自分自身を誇らしくも思う。「ぎょうざの満洲」。ここへ行けば、思春期の心を持て余す酒呑みだって、きっと温かく迎え入れてくれるのだ。
埼玉発、全国展開を目論む中華チェーン「ぎょうざの満洲」
ぎょうざの満洲は、1972年に埼玉県所沢市の新所沢駅近くで創業した中華チェーンで、現在は埼玉県川越市に工場と本社を構えている。関東ローカルチェーンのようにも思えるが、近年では関西にも進出し、全国で100を超える店舗を展開している。餃子をメインに据えながら、ラーメン、チャーハン、定食などのメニューがあり、その味を安く気軽に楽しむことができる。また餃子などのテイクアウトや通販にも力を入れている。使用する食材はすべて自家製で、新鮮な野菜や肉を自社工場で製品化しているとのこと。後述するが、アルコール類やおつまみ類も取り揃えているため、私たち酒呑みからも密かに支持を集めているのではないかと推測される。
伊達ではない「3割うまい!」へのこだわり
ぎょうざの満洲を訪れると、外観や店内のそこここに「3割うまい!」というキャッチコピーを目にするだろう。これは「うまい、安い、元気!」でうまさ3割増しという思いを込めて生まれたのだそう。さらにもうひとつの重要な意味として、原材料費3割、人件費3割、諸経費3割でバランスの良い経営をめざすという意味もあるらしい。
また店名の横に描かれている女の子のマスコットキャラは「ランちゃん」。 チャイナドレスとシニヨンヘアがトレードマークで、名前はラーメンの「ラ」と炒飯の「ン」から取ったのだとか(餃子の要素は入れなくていいのかしら)。ちなみにモデルは「ぎょうざの満州」社長の池野谷氏と言われている。
注文用タブレットがもたらす、この上ない安堵感
「カウンター席へどうぞ」と案内され、椅子に身体を預ける。正面の壁に掛かっている注文用のタブレットを見て、デジタル社会の効率性に毒された酒呑みの心は安堵するのだ。賛否両論あるかもしれないが、私はこのタブレットで注文するシステムを非常に好意的に捉えている。
ランチの場合など、店でのオーダー回数が1回のみであればこのシステムはむしろ非効率にあたるのかもしれない。しかしオーダーの機会が複数回発生する酒場においては、とても有効であると感じる。ひとりで呑みにきた私のような客が、注文のたびに右手を大きく上げて「すいませーん!」とやる姿はなかなかに痛々しい。酔客の喧騒によってその声がかき消されることも珍しくないし、店員さんがなにか別の作業に没頭していて、こちらをまったく見ていない事案だって頻繁に発生する。せっかくひとりで来たのだから自分のペースで呑みたいのになかなか注文できない、当然お酒の到着も遅れる、自分のペースが乱される、という負のスパイラルは、私にとっては密かな、そしてけっこう大きなストレスであった。そこへ現代テクノロジーがもたらした福音とも言える注文用タブレットの登場によって、私のストレスは一気に解消されたのである。
もちろん老舗のコの字カウンターで呑む酒場などでコレが置かれたなら「情緒もへったくれもないな」となるわけだが、気軽さをひとつの売りとするチェーン系の店であれば、その気軽さに拍車をかけるタブレットはむしろ大歓迎なのである。
他中華チェーンの追随を許さない肉感たっぷりの焼餃子
さて、前口上が長くなってしまったが、さっそく呑んでいこうじゃないか。せっかく「ぎょうざの満洲」に来たのだから、初手は決まりきっている。タブレットで注文すると、ほどなくやってきた瓶ビール。ウォーミングアップがてらに2杯ほど呑み終えたころに、本日の主役である焼き餃子がやってきた。
数ある中華チェーンの中でも、私が「ぎょうざの満洲」を贔屓にしたいと思う大きな理由に、この焼き餃子のボリューム感がある。どことは言わないが、いくつかの中華チェーンで提供された焼き餃子に少々がっかりした経験が私にはある。やせ細っていて、皮と餡の間に虚しい空間が生まれるほどの貧相なたたずまい。味は推して知るべしだろう。それに比べて「ぎょうざの満洲」の焼き餃子の堂々たる姿はどうだろう。むっちりとしたビジュアルから、中に餡がぎっしりと詰まっていることが容易に想像できる。
ひとつ口に運べば、はちきれんばかりに詰め込まれた肉と野菜からしっかりとした旨味が広がっていく。ひとくちの満足感が圧倒的なのだ。そこへビールを流し込んだなら、今日もこの店に来てしまった自分を褒め称えたくなるというわけだ。
餃子だけじゃない、絶妙なおつまみも楽しい。
「ぎょうざの満洲」には、焼き餃子以外にも、呑みながらつまめるフードメニューが意外と充実している。それも他のチェーン店では見られない変わり種が多く、何と言うか、これらが実に呑めるのだ。「国産ハーブ鶏のよだれ鶏(ハーフサイズ)」は甘辛いタレがしっとりとした蒸し鶏によく合うし、タンパク質の補給でヘルシーな印象を与えてくれる。そして「秘伝豆」と銘打たれた謎多きおつまみは、ほんのりとした塩味が心地よく、少しずつ口へと運びながらお酒をちびちび進めることができる非常に優秀なおつまみなのだ。
焼き餃子が残り少なくなってきたなら、すかさず水餃子をオーダー。もっちりしっとりとした皮に包まれたそれは、滑るようにつるんと口の中に入ってきてくれる。焼き餃子と同様に、しっかりと詰め込まれた餡の旨味もたまらない。
そんなこんなでいろいろ楽しみながら、瓶ビールから「スーパーチューハイ」なるプレーンなチューハイへとシフト。カットレモンが添えられた爽やかな味わいで、今日も楽しかった!と思わせてくれるのだった。
気軽で安心、そして美味しさがあるから通ってしまう。
酒呑みとして生を受けたのなら、自分の理想にかなう酒場を求めて日々冒険を繰り返したい気持ちは常にある。でもそれと同時に、通い慣れた店でいつもと同じメニューでしっぽりやりたい日もまたあるのだ。「ぎょうざの満洲」は後者の気持ちに常に寄り添ってくれる秀逸な店舗。気軽に入れて安心できて、餃子をはじめとする美味しいおつまみも楽しめる。こういうお店があるから、その日の気持ちに合わせた充実したお酒ライフが楽しめるんだろうなと思っている。
店名/ぎょうざの満洲
※本記事は筆者訪問日(2024年10月)時点の情報をもとに作成しています。
※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があります。
※飲酒は20歳になってから。お酒は楽しく適量で。