酒場でお酒を呑むことには、少なからずハードルがあると考えている。少しの気合というか覚悟というか、さあ行くぞ、呑むぞ、という勢いみたいなものが必要になるんじゃないかと。お高いお店ならなおさら、初めて暖簾をくぐるお店はもちろん、たとえ馴染みの店であっても、その勢いがまったく必要ないなどということは、私の中ではあり得ない。やはりそこには、お酒を呑むことに付いて回る、独特の背徳感のようなものが拭えないからだ。お酒を呑む行為には、本日の業務は終了しましたという意味が含まれていると言っても過言ではないだろう。もう今日は仕事しません、大切な用事もありません、あとは帰って寝るだけです、そんな状態にあることを自ら宣言したのと同じだと捉えられる。だから私たち酒呑みにはいつでも、そんな覚悟や勢いが必要となってくるのだ。
そんなことを感じている私だからこそ、願わくばもう少し、このお酒を呑むためのハードルを低く設定してはくれまいかと思う。そして願わくば、ハードルが限りなく低い店を用意してくれまいかとも思うのである。そんな気分に陥ってしまった時にはここ、池袋北口の「大都会」に足を向けるべきなのだ。
池袋駅北口、酒呑みのヒーリングスポット「大都会」
東京都内でも屈指のターミナル・池袋駅のなかで、おそらくもっともこじんまりとしていて、もっとも怪しい雰囲気を放つ出口が、北口だろう。この、なにやらただならぬ空気をまとった北口を出て、ノンストップで横断歩道を渡れたなら20秒くらい。レンガ調の建物の半地下、まるで周囲の視線から逃れるようにひっそりと佇むのが居酒屋「大都会」である。24時間営業、券売機による独特の注文方法、個性的な客層、お酒を呑むためのハードルをぐっと下げ、気軽さを積み重ねることで、この店にしかないオリジナルな癒やしを提供してくれる。
慣れればむしろ心地よい、独特すぎる注文方法
少し上述しているが、大都会の気軽さと心地よさを作り上げているのが独特の注文方法であることは間違いない。何の前情報もなく店を訪れたなら、きっと迷ってしまうことだろう。もちろん店員さんが優しく教えてはくれるのだが、予習しておいてそんなことはない。だって一刻も早く呑みたいし。ということで大都会の一連の注文方法についてご説明しようと思う。
あらかた上記のような流れになる。ひとつずつ見ていこう。
(1)券売機で食券を購入
券売機は店舗の入口に鎮座しているほか、店内にも数箇所設置されているので、座席の近くの券売機を利用すればいい。後述するが、券売機の商品のボタン位置と卓上に用意されているメニュー表の商品記載位置は連動している。追加注文の際には、メニュー表で呑みたいもの・食べたいもののあらかたの位置を覚えてから券売機に向かうとスムーズだろう。
(2)食券に自分の席番号を記入
購入した食券に、自分が座る席の番号を記入しよう(この時の私の座席番号は21番だった)。番号は各座席のどこかに、記入用のボールペンも各座席に用意されている。これを書かないと、店員さんが商品をどの席に持っていけばよいかわからなくなっちゃうから、かな。
(3)食券を注文カウンターに置く
店内を見渡せば「注文カウンター」と書かれた看板が見つかるはずなので、食券をカウンター上に置いておこう。近くに店員さんがいる場合には「お願いします」などとひと声かけておくとスムーズかと。
(4)店員さんが商品を届けてくれる
食券を注文カウンターに置いたなら、あとは席で商品の到着を待つだけ。圧倒的な品ぞろえのメニュー表を眺めながら、次に打つべき手を練ったりしておくのもいいだろう。
(5)使用した食器は返却口へ
店員さんは商品を席まで持ってきてくれるが、空いたグラスや皿を持っていってはくれない。空いた食器類は自分で返却口まで持っていこう。たったこれだけの行為を行うだけで、私たちは大好きなお酒を気軽に、リーズナブルに楽しむことができるのだから。
呑めば呑むほど安くなる?お得で多彩すぎるメニューの数々
大都会の魅力のひとつは、そのメニューの多彩さにある。券売機のボタン位置と連動した卓上のメニューを見てみると、刺身もサラダも揚げ物も焼き物も、幅広いジャンルが抑えられていることに気づく。シメのメニューとして蕎麦が用意されているなど抜かりはない。
そしてドリンクメニューがこちら。特筆すべきは、生ビールや酎ハイに2杯券、3杯券、4杯券があるところだろう。どうせ呑むんだからと、先に食券をおさえておきたい気分の時があるかもしれないし、複数人で訪れた際にも便利だろう。呑めば呑むほど1杯の単価が下がっていくのかな、と思いきや、必ずそうなっているということではないらしい。
またドリンクとおつまみのセットメニューにも注目。ワンコイン晩酌セットでさくっと呑んで食べてさくっと帰るも良し、日本酒セットを頼んで生ビールで喉を潤したあと日本酒とお刺身でしっぽり締めるのも悪くない。
リーズナブルでしっかり美味しい、癒やしのひととき
呑み始めるまでの能書きがすっかり長くなってしまったが、生ビール2杯券でオーダーした生ビール(300円/1杯あたり)で乾杯しよう。ピントが合っていないがアサヒスーパードライ。喉が乾いている時には最適のビールだと個人的には思っている。
いつも、どの酒場でも頼んでしまう、もつ煮(380円)も忘れずに。しっかりしょっぱいシャバシャバタイプ。いいじゃないですか、こういうのがいいんですよ、と。
サラダの付け合せが意外と悪くないハムカツ(280円)。揚げたてでさくっとした食感。特別感はないけれど、家ではなかなか作らないタイプのおつまみって、けっこうちゃんと嬉しいんだよな。
生ビール2杯があっという間に喉を駆け抜けていったので、追加で日本酒(冷・380円)を。うん、リーズナブルなのにちゃんと美味しいお酒。コップ酒というスタイルが、このお店にはしっくりきている気がする。
日本酒頼んだからにはこれでしょう、いや、これが食べたいからこその日本酒でしょう。ということで選べる刺身2点盛り(450円)。ホタテとまぐろ赤身。意外なことに、と言ったら大変失礼なんだけど、それでも意外なことに、しっかりと美味しいお刺身だった。このレベルのお刺身が食べられるのなら、またすぐにでも来ようと思えるのだ。
気軽に、手軽に、「ちょっと一杯」のハードルが都内屈指で低い店
池袋駅北口からの秒単位でのアクセス、挙手して「すみませーん!」とやらなくていい券売機を利用した注文システム、リーズナブルなのにしっかり美味しい。お酒を呑むことのハードルの高さや後ろめたさがかなりのレベルで低減された酒場、それが大都会だと言えるだろう。コンビニでお酒を買って、店の前でプシュッと開栓してしまうかのような手軽さで、お酒がゆっくりと楽しめてしまうのだから頭が下がる。一度この感覚を味わってしまったら、間を置かずにまた訪れてしまう。そんな不思議な、中毒性に満ちた酒場だと言えるかもしれない。
店名/大都会
住所/東京都豊島区西池袋1-29-1
電話/03-3986-4564
営業時間/24時間営業
定休日/年中無休※本記事は筆者訪問日(2021年3月)時点の情報をもとに作成しています。
※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があります。
※充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いします。
※飲酒は20歳になってから。お酒は楽しく適量で。