寿司である。誰がなんと言おうと、泣く子も黙る、みんな大好き、あの、例の、お寿司なんである。好きな食べ物はなに?と聞かれて、寿司と答える人のなんと多いことか。なんでも好きなもの奢るから機嫌直してくれと言ったが最後、寿司を奢れという人のなんと多いことか。かく言う私も例外ではなく、寿司や刺身が好きすぎて、もう死ぬまで海外旅行に行かないんじゃないかなとすら思っている。だって海外に行ったら美味しい寿司や刺身が食べられないんだもん。日本酒もないだろうし。とにもかくにも、今も昔も変わらない、寿司の求心力の強さには感服するばかりだ。
回ったり回らなかったり、宅配やテイクアウト専門店のもの、はたまた居酒屋のシメとして食べたり、これまでにさまざまなタイプの寿司を楽しんできた私だが、そういえばひとつチャレンジしていないジャンルがあった。それが立喰いの寿司というものだ。東京都内ではよく見かけるようになったスタイルの立喰い寿司だけど、これまでに入ったことがないといういい加減な理由だけで、なんとなく遠慮していた。が、そこにひとつの転機が訪れる。ツイッターのタイムラインでしきりに流れてくるようになった「アメ横二郎」という名の立喰い寿司店の存在だ。
新店なのに、もうアメ横に溶け込んだ「アメ横二郎」
上野を象徴する風景であるアメ横。上野駅よりは御徒町駅にほど近いJR高架下に、立喰すしアメ横二郎はある。2022年2月オープンと歴史は浅くありながら、SNSをはじめさまざまなメディアで取り上げられるなど、注目を浴び続けているお店だ。ネタの良さとリーズナブルさ、そして立喰いスタイルの気軽さが人気の秘訣なのだろうと推測できる。悪くない意味で、雑多で猥雑なアメ横の風景にしっとりと溶け込んだ店舗は、初訪問なら見逃してしまいそうなほど無骨な印象を受ける。
便利なシートオーダー式、追加注文の際には少し注意を
吸い込まれるように、外の空いているカウンターに着く。店員さんの案内によると、卓上のメニューオーダーシートの希望する商品欄に個数を記入するのだとか。なるほど、これならメニュー表の代わりにもなるし店員さんの負担も軽減されるわけだ。
握りは1貫100円から、細巻きやおつまみ、3貫セットのメニューも用意されている。ドリンクは豊富な品揃えとは行かないまでも、これさえあれば十分、といったラインナップがそろっている。
ちなみにお店のルール的なことで記しておくと、注文した品が到着するとメニューオーダーシートも返却されるので、追加で注文する際は「同じメニューオーダーシートに色の違うボールペンで記入する」ことが正のようだ。このルールを知らずに新しいシートに記入してオーダーしようとした私は、当然店員さんに優しく咎められたものだった。
また店内には、ホワイトボードにおすすめメニューなども掲げられているのでチェックしておきたい。ネットやSNS界隈で有名な方の存在をちらほらと感じられてほっこりしたりする。
おやつ代わりに寿司をつまむ、心豊かな時間
この日はすでに昼呑みをやらかしてきたので、気分としてはおやつ代わりに、お寿司とお酒を軽く嗜もうというコンセプト。土佐鶴の冷酒を、ちびりちびりと楽しんでいく。きりっとした呑み心地、胃の寿司を迎え入れる体制がゆっくりと整っていく。
最初にオーダーした寿司が到着、初手はお得3貫セットふたつでまとめてみた。上段3つが貝三昧(左からホタテ・鳥貝・赤貝/500円)、下段3つが光り物三昧(左から失念・小肌・鯖/500円)。人気のあるお店には理由がきちんとあるんだなぁ、と感じさせる一皿。新鮮なネタと程よいシャリ、これらをお酒で喉の奥へと流す快感は、ちょっと表現できないくらいの多幸感だ。
そういえば、寿司が乗っているのはスチロール皿であることに少し驚く。ひとり気ままにつまむ寿司なのだからこれで充分。むしろ、この手があったかと感心すらしている自分がいる。店員さんの手間を省き、そのことが価格に反映されてリーズナブルになるための施策なら、これまでの枠に囚われずになんでもやってみるべきだと思った。
勢いづいてしまったので追加オーダーを敢行。順不同だが、紋甲イカ、はまち、サーモン、たまご(以上100円)、本マグロ(150円)、いくら(250円)。どれを食べても幸せ、などという語彙力のなさをご勘弁いただきたい。生涯でもっとも贅沢なおやつタイムになったのではないだろうか。
寿司がより身近に、自由になった休日の昼下がり
休日の昼下がり、ランチタイムのピークを過ぎたアメ横二郎の外カウンターには、私以外に40代夫婦と思しき二人組と、おそらく30代の男性ひとり客のみだった。夫婦は終始にこやかに寿司の美味しさを分かち合っているようだったし、ひとり男性は大量に注文した寿司を片っ端から平らげるという壮観な光景を披露してくれた。それぞれの客に交流はないものの、美味しい寿司という共通の幸せを介して、豊かな時間を分かち合っているように感じられた。
こんなに自由な寿司屋は初めてだ。それが私の、はじめてアメ横二郎を訪れた率直な感想かもしれない。寿司のクオリティとリーズナブルさはもちろんだが、何よりも敷居の低さ、いや、敷居がそもそも存在しないかのような自由で牧歌的な雰囲気はもはや尊敬に値するだろう。寿司が持つ特別感や非日常感を排除し、寿司を徹底的に身近に、かつ自由なものへと昇華させた。コンビニで買い食いするみたいに、寿司をつまむ。こんなことがいとも簡単に実現できるアメ横二郎、いつかまた、予定もなしにふらっと立ち寄ってしまうのだろう。
店名/立喰すし アメ横二郎
住所/東京都台東区上野6-10-3
営業時間/12:00~22:00
定休日/水曜※本記事は筆者訪問日(2022年9月)時点の情報をもとに作成しています。
※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があります。
※充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いします。
※飲酒は20歳になってから。お酒は楽しく適量で。