魚で呑む、ということに対して、気持ちのうえでハードルの高さを感じてしまうことがあるのは私だけだろうか。寿司店や魚にこだわった店には敷居の高さを感じてしまうし、卓上で魚介類をセルフで焼くスタイルの店などにはさっと呑んでさっと店を出るイメージがないからかもしれない。もちろん私は刺身でも焼魚でも珍味系でも、とにかく魚をアテにお酒を呑むことが大好きだし、魚さえあれば他には何もいらないとすら思っている。だからそのぶん、魚で呑むことに身構える必要があるというか、今日は魚で呑むんだという気合いや気負いのようなものを同時に感じているのだろう。せっかくの魚なんだから、魚に失礼のないように。せっかくの魚なんだから、しっかり準備して心ゆくまで楽しまなければ。そんな感情が時にフットワークを鈍らせるのである。気負わずに、ふらっと立ち寄って美味しい魚で気楽に呑みたい。そんな私の心に救済を与えてくれたのは、上野の人気店「浜ちゃん」であった。
酒都・上野の中心地で独自の存在感を放つ「浜ちゃん」
昼呑み、酒呑みの聖地と呼ばれる上野。さらにその中心地に堂々と居を構えるのが「浜ちゃん」である。「大統領」「ほていちゃん」「文楽」「昇竜」「肉の大山」「たきおか」「かのや」「五の五」「珍々軒」などなど、お酒の有名店や人気店が文字通り軒を連ねるアメ横において、魚というジャンルで独自の存在感を放っている酒場だ。刺身、天ぷら、焼き魚など多彩な海鮮が名物ながら、その大衆的な佇まいと敷居の低さで多くの人に親しまれている。私自身も何度も足を運んでいるが、訪れるたびに良い酒場であることを実感させられている。
魚を楽しむことにフォーカスした、納得のお品書き
席へと通され、さっそくメニューをチェック。ドリンクメニューは、ビールやハイボールに加えてラムハイがプッシュされている点が新しいかも。個人的には使い勝手の良さで重宝する1合瓶の日本酒メニューが用意されていることが嬉しい。これを見るとぜったい後で頼みたくなってしまうのだ。
そしてフードのメニューがこちら。魚好きの心を鷲掴みにする言葉たちが、所狭しと踊っているではないか。食べたいものばかりで本当に悩む。メニューの写真が添えられていないところが、これまた想像力を掻き立ててくるなあ、と。
ちなみに注文の際は店員さんへ口頭で伝えるのが基本だが、天ぷらだけは卓上の専用用紙に個数を記入して渡すのがルール。猥雑になりがちな細かい注文を記入式にすることで、店側も客側もメリットがあるのだろうと推測される。
魚とビール、魚と日本酒、自由に楽しむ小さな宴
とにもかくにも、コレがあったら呑まないわけにはいかない。サッポロラガービール(赤星)の大瓶をオーダー(700円)。たまに見かけるこのビアタン、なんだかちょっとビールが美味しくなるような気がしてとても有り難い。
魚だ魚だと騒いでいるわりに、もつ煮込み(500円)をしっかりオーダーしてしまった。浜ちゃんのもつ煮は見た目は濃い色ながら、さらりとしたおつゆのさっぱり系。ネギの香ばしさをまとってどんどん食べ進めたくなる一品だ。
そして早くもメインの一角が登場。お刺身の3点盛り(950円)。この日はマグロ、タイ、ぶりの揃い踏み、どれも鮮度良好で弾けるような味わいだ。余談なのだが訪れたこの日は日曜日で、基本的に市場は動いていないはず。お店の仕入れルートなど知る由もないのだが、にもかかわらずしっかりと美味しいお刺身を出してもらえることに、これ以上ない有り難さ感じてしまう。
浜ちゃんのもうひとつの名物、天ぷらがやってきた。頼んだのはアスパラ(250円)、えび(290円)、白身魚(260円)。揚げたてのアツアツサクサクを出してもらえて嬉しい。この日の白身魚はサバのような雰囲気を感じたのだけど、合っているだろうか。どちらにしてもお酒が進む。日本酒を頼むタイミングを見計らいつつ。
それから浜ちゃんの隠れた名物がこちら。天ぷらと一緒に提供される大根おろしである。おわかりいただけるだろうか、一人客が天ぷらを3つしか頼んでないのに、問答無用でこの量が出てくるのだ。いちおう念のために容器の底までレンゲでかき分けてみたが、最後までちゃんと大根おろしだった。この大根おろしを天つゆにたっぷりと投入して天ぷらを味わうことはもちろんだが、他の一品料理に加えてみたり、塩をかけて単品のつまみとして楽しむことももちろん可能。この、ちょっと笑っちゃうくらいの大根おろし、ぜひ堪能してもらいたい。
大根おろしに合う日本酒を(?)、ということで澤乃井の本醸造大辛口を(730円)。きりっと爽やかでとても呑みやすい。思えば澤乃井は東京都のお酒だし、カニのロゴマークもチャーミング。これからも注目しながら、応援していきたいお酒のひとつだ。
気づけば椅子が埋まっている、人気店の懐の深さ
先述したが、この日は日曜日。魚で昼呑みしたいと上野を訪れ、ほぼ開店と同時に着席した。一人客に最適な1階席の隅が確保できたので一安心、やってきた瓶ビールをグラスに注ごうとした時には、すでに客席の7割くらいが埋まっていた。いつの間に人が入ってきたのだろうか、ちょっと目を疑う光景だった。いや、これが人気店の実力なのだろう。これだけクオリティの高い魚料理を、しっかりとリーズナブルに出してくれる。しかも堅苦しさはまったくなく、大勢でワイワイと呑みたい人にも、じっくり腰を据えて呑みたい人にも、気軽なひとり酒でさっと切り上げたい人にも、きちんと対応してくれるのだ。この懐の深さが、浜ちゃんの人気の理由なのだと感じる。
店名/地魚屋台 浜ちゃん 上野店
住所/東京都台東区上野6-9-13 ピッツビル 1F
電話/03-5807-8413
営業時間/11:30~23:00
定休日/無休※本記事は筆者訪問日(2022年9月)時点の情報をもとに作成しています。
※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があります。
※充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いします。
※飲酒は20歳になってから。お酒は楽しく適量で。