【上野「魚草」】無骨に、潔く楽しむ極上の刺身と酒

上野

あなたにとっていちばんの贅沢は何か、と問われれば、おそらく反射的に「刺身と日本酒」だと答えるだろう。もちろん肉も野菜も大好きだし、揚げ物や濃い味のソースをまとったがっつり系のものを無性に食べたくなる時もある。しかし刺身を口に含んだときの至福と、口に残った魚の脂と余韻を日本酒で流し込むときの至福は、自分にとっては特別なものだと感じる。今回紹介する上野アメ横の「魚草」は、そんな私の代えがたい欲求をストイックに満たしてくれる、決して避けて通ることのできない酒場なのだ。

質の良い肴とお酒がストイックに楽しめる「魚草」

とにかく人の多いことで知られる上野アメ横。年末の買い出し時期の混雑ぶりはニュースにも取り上げられるほどで、もはや風物詩と言えるものだろう。特に年末でなくても、休日ともなれば自分のペースで歩くことなど困難なほどの盛況を見せる。そんなアメ横にありながらひときわの盛り上がりを見せ、行列まで作ってみせる酒場が「魚草」だ。

2013年に鮮魚店として創業した魚草は、店頭で生牡蠣などを食べられるサービスが評判を呼び、さらにお客さんの要望もありお酒の提供も開始したところこれも好評を博し、立ち飲み酒場として業態を変化させた。

「呑める魚屋」の異名は伊達ではなく、提供される新鮮な魚介類のクオリティは群を抜いており、各地方から神経締めの魚や最新の技術で管理されるCAS冷凍の魚介を、信頼できる業者から仕入れているのだそう。

独自の雰囲気を放つ空間、女性にも優しい酒場。

露天の簡易的なテーブルに20人ほどの客が立ち、その小さなスペースのせいもあってか、いつも熱気と活気に満ちている「魚草」。メニューの短冊や注意書きなどが所狭しと貼られている店内は、外とは違う独自の雰囲気を放っている。そんなストイックな空間ながら女性客が多いと感じる理由は、以下に挙げるお店独自のルールによるものなのかもしれない。

覚えておきたい「魚草」のルール

◯行列ができていたら最後尾に並び、店員さんの案内を待つ
◯お酒・おつまみ提供時に現金払いのキャッシュオンデリバリー方式
◯利用は30分、お酒は2杯まで
◯「大声 セクハラ 奢り&奢られ 一発退場!」

最後の項目のインパクトが強大だが、他のお客さんとの距離が近く当然お酒もはいるため、お互いを気遣いながら良き酒場の空気を守っていきたいところだ。またお店としては、このルールによって女性も気軽に利用できる環境づくりを行っているようだ。

魚と酒、潔さすら感じる愚直なお品書き

この日は休日だったので、店の前に蛇行する列に並ぶ。結構待つのかなとも思ったが、立ち呑みであるうえに上述の30分ルールのおかげもあって、思いのほかスムーズに席へと案内された。

さっそく壁に貼られた短冊メニューを眺める。肴(魚)と酒、という愚直なまでの品揃え。私の席からは確認できなかったが、ラッパ飲みする瓶ビールや白ワインなんかもあるようだ。

また別の壁面には魚を仕入れている業者さんとその地域が張り出されている。こんなところからも、魚の産地と質には絶対の自信を持っているのだろうということが伺える。まだまだ待ち客の列は長い。さっそく注文していくとしよう。

極上の刺身と大好きな日本酒を、好き勝手に楽しむ

ファーストチョイスとしたお酒は「ど辛(500円)」。お刺身をこれでもかと楽しみたかったので名前からして日本酒度の高そうなものを(安直に)セレクトした。名前のとおりキリッとすっきり。お刺身を迎え撃つ準備は整った。

そして運ばれてきたのは定番中の定番であろう「刺身3点盛(1000円)」。この日の3点はホワイトボードに記されているようにインドマグロ、チャイロマルハタ、メダイ。3点と言いながらおまけ(?)みたいに貝紐のようなものも(未確認すみません)。どれも新鮮で脂の乗ったしろもの。日本に生まれてよかったと思える瞬間が到来した。

美味しいお刺身のおかげであっという間にお酒がなくなってしまったので、間髪入れず2杯目を注文。今度は大好きな「田酒(600円)」。きりっと引き締まりながらもどこかに優しさのようなものを感じる一杯。

そして満を持してやってきたのは「生かき(3個・1000円)」。こんなに大きくてプリプリの生かきが都心で味わえるなんて、お店の努力やテクノロジーの進化に感謝の念を覚える。早く、もっと食べたい。でも無くなってしまうのが心底惜しい。そんなどうしようもない葛藤が生まれるほどの、極上の味わいである。

この店の刺身が食べたい、再びそう思わせる満足感

そんなこんなで、お酒も肴もあっという間に喉の奥に消え去っていった。席へ案内されてから20分くらいだろうか、すでに2杯呑み終えてしまったし、行列もまだまだうねっていたので、お店の方に挨拶し早々に引き上げた。

はたから見れば、ビニールテントに覆われただけの露天で、簡易テーブルについての立ち呑み店。広くは決してないし他のお客さんとの距離も近い。この類の店など眼中にない人も少なからずいるだろう。それでも、と思う。それでもいいから、ぜひ一度この店の刺身で酒を呑んでもらいたい。退店後に感じる満足感が、きっとまた魚草へ足を運ぶことになるだろう。

店名/魚草
住所/東京都台東区上野6-10-7 アメ横プラザ
電話/03-4400-3264
営業時間/12:00~19:30
定休日/第2水曜

※本記事は筆者訪問日(2024年1月)時点の情報をもとに作成しています。
※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があります。
※飲酒は20歳になってから。お酒は楽しく適量で。