酒場は大人の社交場、などと言われる。親しい人と訪れたなら、お酒を酌み交わすことでさらに親交が深まるというものだろう。また出会ってから日が浅い人と訪れたなら、相手の人となりをしっかりと理解することにも繋がる。さらに酒場で出会った人とひょんなことから会話が生まれることもあるし、そこから人の輪が広がっていくことも大いにあり得る。
だが私が思うに、酒場であればどんな店でも社交場として機能するというわけではない。人と人との間には、美味しいお酒と美味しいおつまみ、そして何よりも自然と会話が生まれるような穏やかで親しげな空気が必要だ。
今回訪れた赤羽の名店「まるよし」は、まさにすべてを兼ね備えた、真の意味での大人の社交場。何度でも足を運びたくなる魅力に溢れた酒場なのだ。
創業70年以上、酒呑みの街・赤羽の顔「まるよし」
赤羽駅東口から徒歩わずかに1分、1952年(昭和27年)創業の老舗大衆酒場「まるよし」は戦後の庶民の台所として誕生し、以来70年以上にわたり地元に愛され続けている。2017年の改装で看板や内装は明るく清潔になったものの、昔ながらの「コの字カウンター」と人情味あふれる雰囲気はそのまま。肩を寄せ合って呑むスタイル、多くの常連客とはじめての客を一体化させるこの店ならではの空気感は、まさに赤羽の顔と呼ぶにふさわしい。ひとり客でもグループでも、予算千円台から気軽に楽しめる気取らない居心地と、人情あふれる接客は「まるよし」の真骨頂と言えるだろう。
清潔で活気ある店内、そしてどこまでもフレンドリーな店員さんたち
平日の昼下がり、仕事仲間と赤羽へ降り立つ。この日のために仕事とスケジュールを綿密に調整、すべては計画通りというわけだ。昼呑みの聖地たる赤羽の店をいくつか堪能した後、開店したばかりのまるよしへと赴いた。開店直後であるにもかかわらず、店内では半分ほどの席が埋まっていたように思う。さすがは赤羽、さすがはまるよしである。
近年の改修によって、いわゆる年季の入った老舗感らしきものはあまり感じられないが、清潔で活気にあふれる店内。テーブル席に案内された後でほどなく呑み始めるわけなのだが、我々の会話を耳に挟んではちょいちょい話に参加してくれるほどフレンドリーな店員さんたちに笑わせてもらいながら、本日の宴はいよいよの盛り上がりを迎えることになった。
質と値ごろ感の相乗効果、目移りしてしまうお品書き
店内に張り出されたメニューをチェックしつつ、手元のお品書きも眺めてみる。ビールは私の大好きなサッポロが並んでいて嬉しい限り。日本酒も充実しているうえ、焼酎系、ウイスキー系、マッコリやワインと幅広く取り揃えられている印象だ。
おつまみメニューはジャンルではなく金額によって振り分けられているスタイル。使う金額を設定している人には嬉しい並び方なのではないだろうか。品数が豊富なうえ、金額もかなりの値ごろ感があって期待が高まる。「しゃくしな漬」や「しめ小肌」など他ではあまり見かけないメニューも記載されており、いろいろ確かめるために、この時点でもう何回も通ってしまいそうな勢いである。
居酒屋って本当に楽しいよね、と実感させられる充実の宴
さてさて、サッポロビールが充実している嬉しいお店なのだから、呑むものはもう決まりきっている。サッポロラガービール、赤星なのである。けっこう良く呑んではいるのだが、このビールが置いてあるお店に出会うと嬉しさが込み上げてくるのだから、本当に大したビールだと思うわけなのです。同行人たちもホッピーなど思い思いのドリンクをオーダーし、宴を開始する。
手始めに枝豆、トマト、そしてらっきょうがテーブルに並ぶ。どれも容易に味が想像できるものであり、実際に想像どおりの味がする。でもそれがいい。いつもの安心できるおつまみであり、大きな冒険をせず、地に足のついた状態で宴をスタートできるというものだ。
はじめて訪れる酒場ではいつもオーダーする煮込みが到着。前にも書いた気がするけど、私個人としては、煮込みはそのお店の力量をはかるという意味で欠かせないおつまみだと考えている。ちょうどバーテンダーの力量を見極めるためにはジントニックが最適と言われるように。
まるよしの煮込みは、お世辞抜きで、私が過去に食べてきた煮込みの中でも5本指に入るほどの味わいだったように思う。しっかりとした塩気とモツのやわらかさ、そしてビールがあっという間に持っていかれる中毒性。同行人とシェアしたため、ひとり分が少なめだったのがとても悔やまれる。次回はひとりで、この煮込みを独占してやりたいものだ。
煮込みと並んで、まるよしの看板メニューであるキャベ玉もやってきた。キャベツと玉子を炒めたものだから、キャベ玉。お金を出して食べるほどのもの?家でも簡単に作れるんじゃない?心のどこかでそう思っていたかもしれない自分を大いに恥じることになった。このキャベ玉、シンプルな料理のはずなのに家では絶対に再現できないと思い知らされるシロモノなのだ。この味を言葉にすることの難解さよ。きっとさまざまな調味料やスパイスが素材の風味と融合して、最高峰のおつまみとして完成されているのだ。さすがは看板メニュー、看板に偽りなしとはまさにこのことだろう。
いろいろ呑み散らかして食い散らかして、たどり着いたのはチュータンである。焼酎と炭酸だから、チュータン。つまりプレーンなチューハイということでいいのだと思う。しかしドリンクメニューには、チュータン以外に「まるよしサワー」「昔ながらのチューハイ」なるものも名を連ねている。この違いについてフレンドリーな店員さんに教えてもらった気がするのだが、その内容は宴の楽しさによって過去へと流されていった。また今度聞いてみようと思う(失礼しました)。
美味しくてあたたかい、真の意味での大人の社交場。
まるよしが70年以上もの長きにわたって愛される理由、それは美味しいお酒と独自で幅広く取り揃えられたおつまみ、そして店員さんが作り出す活気にあふれた親密な空気感に他ならない。ひとりでも、グループでも楽しめるまるよしは、まさに真の意味での大人の社交場。実際にこの記事を書きながら「またまるよしに行きてえなぁ」なんて思わせてくれるのだから、その魅力は計り知れないものがある。一緒に行ってくれた方々、またぜひ行きましょう。
店名/まるよし
住所/東京都北区赤羽1-2-4
電話/03-3901-8859
営業時間/月〜金15:00〜22:00、土祝日14:00〜22:00
定休日/日曜日※本記事は筆者訪問日(2025年6月)時点の情報をもとに作成しています。
※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があります。
※飲酒は20歳になってから。お酒は楽しく適量で。