たとえばけっこう嫌なことが自分の身に降りかかり、どっぷりと落ち込んでしまったとしよう。どうにかしてこのずっしりと重い心を癒やして、なんとかしてもとの元気な自分をとりもどしたい。そんな時には、ざっくりと2通りのケア方法があるんじゃないかと私は思う。
ひとつめは「寄り添い型」。まるで、その気持ちわかるよ、と言葉少なくじっと隣に座ってくれる古い友人のように、ただ静かに時が過ぎて心が立ち上がるのをゆっくり待つというもの。これを酒場に例えるなら、常連に愛されるこじんまりとした小料理屋だろう。静かな店内、適度に放っておいてくれる空気感が心に染みていく。
もうひとつは「急浮上型」。重い心にあえて反するかたちで、無理矢理にでも立ち上がり、アクティブに動き、食べたいものを食べ、呑みたいお酒を呑むなどすることで、体内に元気を強引に流し込むというもの。これを酒場に例えるなら、そう、今回紹介する「四文屋」である。肉を喰らい、酒をあおり、頭から元気を浴びることができる酒場だ。
東京都内を中心に勢力を拡大する四文屋グループの一角へ。
東京都内の繁華街をうろうろしていると、けっこうな頻度で四文屋の看板を目にする。黄色地にどっしりと書かれた四文屋の文字の存在感。2022年8月現在で都内に40店舗近く、また北海道や神戸、博多にも展開中だ。焼きとり・焼きとんの四文屋ばかりでなく「魚の四文屋」「牛の四文屋」「串揚げの四文屋」「鉄板ホルモンの四文屋」など多彩な業態にも勢力を拡大している。今回は焼きとり・焼きとんの四文屋、新宿は思い出横丁店へ。JRの電車内からもその看板が見て取れる、存在感たっぷりのお店に足を踏み入れた。
美味いものをぎゅっと凝縮したような、味のあるお品書き。
二人がけのテーブル席に案内され、さっそく卓上のメニュー表に目を通す。この瞬間に湧き上がるワクワク感は何度経験してもいいものだなぁ、なんて思えてくる。ドリンクはビールもサワー系もハイボール系も、焼酎も日本酒もワインも、梅酒やマッコリまで多彩に揃っている。品数は多くないものの、お店が美味いと思えるものをしっかり厳選してくれたような印象を受ける。
そして特徴的なのは、某有名もつ焼き店の名物メニューとも言える「梅割り焼酎」があること。25度の金宮焼酎に梅シロップを垂らして呑むのが作法で、梅の香りはするものの、ほぼ焼酎のストレートと言って良いシロモノなのである。強いお酒だから、オーダーできるのはひとり3杯まで。我こそはと思う方は、ぜひチャレンジしてほしい。きっともつ焼きに合うんだろうなぁ(私はまだ呑んだことがないので、いつか必ず…)。
続いて裏面のフードメニューへ。焼とん串、焼とり串、煮込み、そして野菜系やスピード系まで。うちは焼きとり・焼きとんの店ですよ、というお店のアイデンティティを明確に押し出している印象。とても潔くて、居酒屋とはこうでなきゃ、と思わせる品揃えに思える。
肉と脂とタレにおぼれていく、至高の時間
それではさっそく、ということでビンビール(中・550円)からスタート。しっかりと冷やされたスーパードライの中瓶によって、酒欲と食欲が増進されていく。
おつまみ一品目はもつ煮込(385円)。もつ煮って、同じ料理名なのにお店によってぜんぜん味が違うよな、お店の特徴が現れて楽しいな、なんて思いながら。四文屋のもつ煮込はもつの噛みごたえがしっかり、少し甘めが強いのが特徴。
そしてメニューにその名前を見かけるとついついオーダーしてしまうのが冷奴(275円)である。お店で作ったこだわりの豆腐、ということでもないだろうに、いつでも美味しくいただけてしまうのだから仕方ない。好きなんですよ冷奴が、ええ。
もちろん焼き物も食べておかないとね、ということで焼とん串を。頼んだのは写真左からカシラ(塩)、レバー(タレ)、喉のアブラ(タレ)。肉食ってる感じがダイレクトに押し寄せるカシラからは、じわじわとあふれるアブラが絶品。レバーは意見が分かれるかもしれないけど、私は断然タレで食べたい派。そしてアブラの多い部位は何かとお店の人に聞いたところ、今日は喉のアブラ(正確な部位名は失念しているかも)があるとのことでタレで焼いてもらった。濃厚でとろけるようなアブラとタレの甘み、これはとんだお酒泥棒の誕生である。
脂とタレの合間に最適な、口内の良きアクセントとなるネギ焼き(110円)。肉一辺倒で突っ走るよりも、ネギなどを挟みながら緩急つけることで、酒の席が心豊かになるんではないかと思ったりそうでもなかったり。
二杯目を悩んだ結果、オーダーしたのは金宮サワー(440円)。ただの酎ハイのようにも見えるが、酎ハイに比べてすこし甘さがあるような。某有名立呑み店のゴールデンチューハイに似ているような。おいしいです。
追加オーダーしたのは牛ホルモン冷静三点盛(825円)。さっぱりと食べられる冷製のホルモンには、ポン酢、ごま油、辛味噌のつけダレが用意されていて、さらにニンニクと生姜の薬味も。どの部位をどの味で楽しもうか、お酒のせいもあってちょっと混乱してしまうのもまた楽しい。
昼から呑めるから、夜勤明けの人にも、今日働きたくない人にも?
私が新宿は思い出横丁の四文屋を訪れたのは、平日の昼ごろ。それにも関わらず店のテラス席にはスーツ姿の団体がにぎやかな時間を過ごしていた。夜勤明け?プレゼン終わり?午後半休?サボっちゃった?カタギと思われる人々がなぜこの時間に、このような店にいるのかはわからないが、とにかくみんな楽しそうに談笑している。酒の前では皆平等、これでいいじゃないか。新宿のど真ん中で、曜日も時間も問わずに楽しめる店なのだから、使い方の幅もかなり広いんだろうなと推測できる。
また店員さんたちも、みんな非常に元気で愛想が良く、見ていて気持ちの良い接客っぷり。ここまでしっかり動いてくれると、不安もどこかへ行ってしまい、呑むことに、楽しむことに集中できてとても有り難いと感じられる。
肉を喰らって、酒をあおって、気づいたら元気になっている店
なんとなくの経験から、体調が優れない、元気が出ない時には肉を食べると良いような気がする。さらに楽しくお酒を呑むことができれば、その効果は倍増するような気もしている。元気で気持ちの良い接客も含めて、四文屋には疲れた心や身体を、無理矢理にでも引っ張り上げるチカラがみなぎっているように思う。今回は普通に楽しく呑ませてもらったけど、この先、もしも落ち込むようなことがあったら、四文屋の店名を思い出すことにしようと思う。
店名/四文屋 新宿思い出横丁店
住所/東京都新宿区西新宿1-2-5
電話/03-6279-0336
営業時間・定休日は店舗にご確認ください※本記事は筆者訪問日(2021年4月)時点の情報をもとに作成しています。
※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があります。
※充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いします。
※飲酒は20歳になってから。お酒は楽しく適量で。