【新大久保「福しん」】ゆるさと優しさがあふれる中華チェーン 

酒場をめぐる

ふらっとひとり呑みしたいとき、気負わず気軽に呑みたいなと思うとき、私は「餃子の王将」や「ぎょうざの満洲」といった中華チェーンに足を向けることが多い。しっかり美味しい中華で呑めるし、何よりも手頃な値段で楽しめるのが良い。では今日も中華チェーンに、と思ったその刹那、私の脳裏をかすめたひとつの中華チェーンがあった。青い看板が目印の「福しん」である。過去に数回訪れたことがあるはず。でもお酒を呑んだ記憶はない。それならば試してみようじゃないかということで、少しのワクワク感とともに、新宿からほど近い新大久保店の暖簾をくぐることにした。

地域に根ざした安心の中華チェーン「福しん」


「福しん」は東京都豊島区に本社を構える中華料理チェーン。創業は1964年11月で、1972年10月に法人化されている。 ​創業者の高橋保次氏が池袋駅南端にある「びっくりガード」付近の中華料理店「福新」での経験を経て、東長崎に1号店を開業。​それ以来、池袋を中心に東京23区北西部で店舗を展開、現在は約30店舗を運営している。このことから大規模な店舗展開をめざすよりも、地域に根差した運営を続けているという印象を受ける。

福しんの魅力は、手頃な価格で提供される豊富なメニューと家庭的な味わいにある。​看板メニューの「手もみラーメン」は創業以来の人気商品で、2025年2月時点で490円というリーズナブルな価格を維持。​また定食や一品料理も充実しており「おともラーメン」は定食のスープをプラス150円でミニラーメンに変更できるサービスとして、多くの顧客に親しまれている。​

また福しんは食材へのこだわりも特徴的で、​国産野菜や自家製麺を使用し、手間を惜しまない調理で、長年愛される味を提供している。近年ではファミリー層の来店が増加していると言われ、店舗デザインやサービスも多様な客層に対応する形で進化している。​

普段使いできる安定のメニュー、酒呑みに嬉しい品々も


福しんのメニューは大きく「麺」と「定食」によって構成されている。福しんならではといったメニューは見受けられないが、ラーメン、チャーハン、餃子、唐揚げ、麻婆豆腐など、われわれ日本人がイメージするスタンダードな中華料理が揃っている。そのため福しんをはじめて訪れた人であっても、選択に迷うことなく、日常生活の延長として食事を楽しむことができる。これをオリジナリティがないと捉えるのか、安心できる普段使いの店として捉えるのかで、意見は大きく分かれるのかもしれない。私はもちろん後者の感想を抱き、福しんへの好感度は急上昇するのである。


麺や定食でしっかりとお腹を満たすことも楽しいのだが、私たち酒呑みとしては「ここで呑めるのか?」が店選びの大きな基準となるだろう。その点においても福しんはしっかりと期待に答えてくれる。メニュー表の最後に、アルコール類と一品料理のラインナップが堂々と刻まれている。中華で呑みたい酒呑みの気分に寄り添ってくれている感じが実に心地よいではないか。


また新大久保店限定のメニューとしてお得な生ビールセットや一品メニューも用意されている。ということは他の店舗へ行けば、その店ならではのメニューで呑めるということかも。楽しみはどこまでも広がっていくというものだ。

何の変哲もない、でもそれがいい、心豊かなお酒の時間


それではさっそく。瓶ビールがないようなので生ビールをオーダー。瓶ビールと生ビールではどちらが好みか、といった議論もあるかもしれないが、私の回答は両方好き。瓶ビールばかり呑んでいたら生ビールが恋しくなり、その逆もまたしかり。どちらが上かではなく、相互に補完しあう関係性ということで良いのではないだろうか。ちなみに小さなザーサイがおまけで付いてきてとても嬉しいのである。


程なくやってきたのはギョウザである。言い方は悪いかもしれないが、餃子をウリにしている店でない、普通の中華店の普通の餃子というのも、なんだか愛くるしくて好きなんだよなぁと思っている。予想から外れない味わいが心を落ち着かせてくれる。


続いて一品メニューから青椒肉絲。細切りにされたピーマンとタケノコと豚肉の食感が好き。お酒を呑んでいると、塩っぱいものや酸っぱいものが食べたくなるけど、こういった歯ごたえのあるものもお供に加えたくなる性分なのだ。


生ビールを早々に終えてしまったので、抑えきれない冒険心から、けっこうすごい色をした福しんサワーを所望。お店のブランドカラーである青をイメージしているらしい色合い。子供の頃に通った駄菓子屋をイメージさせるのは私だけではないはずだ。


最後に定番メニューで締めよう、ということで手もみラーメンを。日本人が想像する醤油ラーメンの味、そのど真ん中を行くような王道の、それでいて何の変哲もない普通の醤油ラーメンである。でもそれがいい。そして手もみされているという麺もうまい。お腹が空いた時のファーストチョイスにはならないかもしれないけど、ご飯のおもとに、お酒の後に、そっと寄り添ってくれるような優しい味わいのラーメンなのである。はからずもほっこりとした気分のまま、お店を後にすることができた。

新大久保なのに女性ゼロ。安定の福しんブランドを楽しむ


思えば、ここは新大久保なのである。一歩店を出れば、韓国料理や韓国コスメや韓流スターグッズを求める若いお嬢さんたちであふれ、道をまっすぐ歩くことさえ困難な場所である。それなのにこの福しん新大久保店の中には、そういった女性は皆無である。ゼロである。ここにいるのは、近所に一人暮らししているのかもしれないジャージ姿のお兄さん、近くの工事現場で汗を流しているのかもしれないお兄さん、やはり近所に住んでいるのかもしれない初老のお父さん、たまたま通りかかっただけといった風情のおじさん、くらいなものである。これでいい。時代や流行に左右されない、地域に根ざした安定の運営、これこそが福しんブランドなのである。キャピキャピした要素は微塵もなく、安定した美味しさの中華メニューがいつでも楽しめる。人が最後にたどり着くのは、こんなお店なのかもしれない。

店名/福しん 新大久保店
住所/東京都新宿区大久保1-15-17 サンハイム大久保 1F
電話/03-3208-7417
営業時間/11:00 – 22:00
定休日/水曜日

※本記事は筆者訪問日(2025年2月)時点の情報をもとに作成しています。
※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があります。
※飲酒は20歳になってから。お酒は楽しく適量で。