【上野「たきおか」】一番槍も、しんがりも務める強者の酒場

上野

この世に酒場は星の数ほどあるけれど、それぞれにはポジショニングというか、役割分担みたいなものが自然と割り当てられているように思う。たとえば仕事帰りにふらっと訪れる日常使いの店、気になる女の子を誘って男を上げるための店、接待で契約を勝ち取るための店、友達とワイワイやるための店、とにかく安く呑むことを追求するための店、特別な日にちょっと贅沢するための店、などなど、などなど。とにかく人は、その時の事情や目的や気分によって、数多ある酒場を吟味し使い分けているというわけだ。だから酒場に貴賤などなく、高い店が良いわけでも安い店が悪いわけでもなく、空の下において酒場はすべて平等なのだと語っても概ね間違いではないだろう。

では、今回紹介する上野の立ち飲み店「たきおか」の役割とは何か、私が勝手に考えるのは『ゼロ次会とシメの一杯のための店』である。

多彩な使い方に対応する懐の深さ「たきおか」


たきおかは、酒都・上野に3店舗を構える立ち飲みの人気店。リーズナブルさを売りとする酒場が多い上野にありながら、その中でもトップクラスのコストパフォーマンスを誇っている。朝7時から終電近くまで長時間にわたる営業時間、そのさまはまるで、ロングランで駆け抜けるストイックな長距離ランナーのよう。早朝呑みも、昼呑みも、ゴールデンタイムの夜呑みも、幅広い使い方が可能。ひとりでも複数人でも、上野でとにかく安く、とにかく気軽に呑みたいなら知っておいて損はない、いや、知らなければ損するくらいの偉大な店なのだ。※喫煙可能店なので苦手な方はご注意を

酒呑みの強い味方かもしれない?CoDな支払方法


たきおかでは、近頃ちょっと珍しいかもしれないキャッシュオンデリバリーの支払方式を採用している。これはつまり代金引換のことで、注文時に商品の代金を店員さんに手渡しするというものだ。といっても難しいことは何もなく、小銭や千円札(高額紙幣は使わない方が親切かも)を机の上に置いておけば、店員さんが該当金額を引き取ってくれるし、お釣りがある場合はもちろんその場で渡してくれる。オーダーしたものは店員さんが机まで持ってきてくれるので、あとはいつものようにお酒を楽しむだけだ。この支払方法であれば、さんざん酔った後のお会計という最高に煩わしいイベントを通らなくて良いし、酩酊したお客さんとお店の支払トラブルも少なくなるのではないだろうか。クレジットカードや電子マネーの類は使えないが、財布にたまった小銭が有効活用できるというメリットもあるので、これはこれで良しとしよう。

 300円台が高級に見える、圧倒的にして多彩なメニュー


たきおかには卓上メニューはなく、基本的に壁面に掲げられたメニュー表からあれこれと悩むことになる。ドリンクはビール、酎ハイ&サワー、日本酒といった潔いもの。おつまみは驚きの160円メニューから、焼物、煮物、揚げ物などがしっかりとそろっている。おつまみメニューで300円台に突入すると、そろそろ高級品なのではないかと勘違いさせてくれるレベルだ。


定番メニューのほかに、本日のおすすめと記されたホワイトボードにも注目したい。定番メニューにはないお刺身もラインナップされているではないか。日本酒もいろいろありそうなので、次に行った時はこのラインから攻めてみたいと思ったり。

リーズナブルで味わい深い、感謝の絶えない時間


それではいただいていこう。グラスに満たされていく、そのさまを眺めることすら愛おしいビール(大瓶/450円)。こんなにも素敵なお値段で、冷えた大瓶が呑めることに全力で感謝。


先陣を切ってやってきたおつまみは揚げなす(210円)。揚げ浸しのようになっていて、しっかりとお酒に合う味付けがなされている。素朴な一品、だけどここまで美味しい。次に出てくるおつまみが楽しみになってくる。


続いては私の酒場メシの定番、煮込み(160円)だ。味噌の風味が感じられるさっぱりとした一品。いろいろな店で煮込みを食べてきたけど、かなり好みのタイプかもしれない。


瓶ビールがすっかりどこかへ行ってしまったので、いつもなら酎ハイを頼むところだけど、微妙な変化をつけてレモンハイ(310円)へと移行。ほんのりさっぱりとしたレモンの風味、また勢いがついてしまいそうになるのをちょっと我慢する。


追加で頼んでおいたメンチカツ(250円)が到着。ソースをつけてガブリとやると、揚げたてでめちゃくちゃ熱い。呑んでる最中の揚げ物は注意しないと、などと普通のことを考えながら、揚げたてのメンチカツが美味しくないわけなどないのだ。

ゼロ次会にもシメの1杯にも使える、懐の深い酒場


休日の日中、たきおかの店内はひとり客が6割、ふたり客が4割という構成だったように思う。年齢層は高めで、ほぼ全員が呑み歩き慣れている、酒場のベテラン層のように見えた。ゆえにマナーと秩序の保たれた、非常に居心地の良い空間ができあがっていた。ほんのお酒1杯とおつまみ2品を平らげてさっと席を立つ御仁を見て思ったのは「ここはゼロ次会や、どこかで呑んだ後のシメの一杯にいいかも」ということだった。

誰かと呑もうと約束して、でも待ち合わせ時間まで少し余裕があったなら、たきおかを訪れて1杯2品あたりを楽しみながら時間をつぶす。そんなひとりゼロ次会、とても豊かな時間の使い方ではないだろうか。また気の置けない友人としこたま呑んだあとで、終電までもう少し時間があるからもうちょっと呑んでいきたい、でもけっこうお金使ったから安いところがいい、みたいなタイミングがあったとしたら、たきおかでシメの1杯を呑むのが良いだろう。そんな自由でワガママな使い方にも対応する、たきおかの懐の深さに感服するのである。

こんな時代だからこそ、頼りになる存在、頼もしい酒場。

お酒を呑むことを戦いに例えるなら(例える必要はないけれど)、ゼロ次会は一番槍、シメの1杯は殿(しんがり)になるだろう。どんな状況にも柔軟に対応できる、リーズナブルでおまけにおつまみのクオリティも驚くほど高い。こんなにも頼りになる戦士なら、この不透明な時代の戦いでも強く逞しく生きていけるんだろうな、なんて考えてみた。この記事を書きながらまた訪れたくなったたきおか、次にいつ行けるのか、早くも調整中である。

店名/立飲み たきおか
住所/東京都台東区上野6-9-14
電話/03-3833-2777
営業時間/7:00~23:30
定休日/無休

※本記事は筆者訪問日(2022年9月)時点の情報をもとに作成しています。
※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があります。
※充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いします。
※飲酒は20歳になってから。お酒は楽しく適量で。