親愛なる酒呑みのみなさんは、酒場でひとり酒を楽しむ際にどのような時間の過ごし方をしているだろうか。もちろん酒場にいるのだから酒を呑んだりつまみをつついたりは当然なのだけれど、お酒やおつまみの合間に何をするかによって、楽しい時間がさらに充実したものになるのではないかと私は思っている。私がひとり酒をする際にまわりを見渡すと、ぼーっとしていたり、何かを読んでいたり、その過ごし方は千差万別、実にさまざまだと気付かされる。そこで今回は、それなりの機会にわたってひとり酒を楽しんできた私の、酒場での過ごし方を8つご紹介したいと思う。何かの参考になれば幸いだし、きっと誰の得にもならないんだろうなと思いながら。
ひとり呑みの時にやること①「メニューを熟読する」
まずはライトなところからご紹介。ひとり呑みの際にもっとも手近にある読み物といえばメニュー表である。メニュー表にはその店のコンセプトやこだわり、スキルや意気込みや展望などさまざまな要素が詰まっていると想像できるので、これを解読しない手はない。メニュー表をじっくりと眺めることで意外な事実を発見することもあって楽しい。和風の店なのに意外と洋風メニューが充実していたり、中華メインの店なのに意外と日本酒が充実していたり。また大宮の「いづみや」や鶯谷の「信濃路」のように、壁一面がメニューで覆われていたりすると、まるで美術館で高尚な絵画を鑑賞している気にもなるのだから、メニュー表の底力を侮ってはいけないのだ。
ひとり呑みの時にやること②「テレビをながめる」
テレビを見るだなんてかなり普通なことを挙げてしまったが、普段テレビをあまり見ない生活を送っている私にとって、テレビのある酒場は貴重な視聴機会になったりすることがある。ワイドショーなど、誰かが何かについて熱心に語っているさまを眺めるのは新鮮だし、最近はこんな人がテレビに出てるんだ、とかこんなCMやってるんだ、みたいな発見もある。ただネガティブな話題について延々と取り上げている番組についてはちょっとゲンナリしてしまうので、そのときは別の過ごし方を模索するようにしている。
ひとり呑みの時にやること③「常連の手元を見る」
初めて訪れる店やそこまで馴染み深くない店である場合は、常連と思しき御仁の手元を横目で盗み見ると、その店を楽しむためのヒントが隠されているかもしれない。常連であれば、その店で本当に美味しいもの、外してはいけないメニューを卓上に並べていることが多いと感じる。そして、そのおつまみに合うお酒を一緒に楽しんでいるかもしれない。店員さんと親しげに話している人の手元に、なんだか美味しそうなものが備えられているさまを、これまで何度見かけたことか。郷に入れば郷に従え。その店の美味しいものは常連の所作から学んでみると良いのかも。
ひとり呑みの時にやること④「ひとり脳内会議」
「ぼーっとする」とかなり近いようでいて、まったく異なる性質のもの。今自分が抱えている問題や、解決したいこと、改善したいことなどについて、お酒のチカラを借りて脳内で向き合ってみるのだ。ひとり酒の時間は、完全に自分ひとりのもの。電話やメールは無視すれば良いので、普段よりもひとつのことに集中できる可能性が高い。誰にも邪魔されない時間を利用して、自分の暮らしや人生をより良くする方法について深く考えてみるのも悪くないだろう。ただひとつ注意点として「自分ひとりのチカラや努力では解決できないことについて悩み続けてはいけない」ということを挙げておきたい。国、社会、世の中、流行など、自分がどうがんばっても変えようのないものについてあれこれ悩み続けてしまうと、いつの間にか良くないお酒が進み、悪い酔い方をしてしまうことがある。ひとり酒はあくまでも楽しく、人様に迷惑をかけない範囲で行うべきだと思う。
ひとり呑みの時にやること⑤「隣席の会話が聞こえてしまう」
「隣席の会話を聞く」のではなく、あくまでも「聞こえてしまう」なので誤解なきよう。イヤホンや耳栓でもしない限り、隣席の会話が突然聞こえてしまうことは往々にしてあるものだ。聞こえてしまったものは仕方がない。その会話が面白かったなら、一切リアクションをせず、物思いに耽っているフリをして聞こえてしまおう。以前訪れた酒場では、隣席の20代と思しき女性ふたりが、男性の容姿の許容範囲について議論を白熱させていた。ふたりとも概ね、世間的にイケメンと呼べる男性でなければ恋愛対象に入らないとしていたのだが、その考えでこの先大丈夫なのかなあ、と老婆心ながら思ってしまったのだった。そしてその会話が悪くない酒のつまみになったことも否定できないのである。
ひとり呑みの時にやること⑥「読書にふける」
酒場で本を開いている人は意外と多いかもしれない。少しのお酒と、酒場ならではの程よい喧騒は、本を読むための集中力を高めてくれるように思う。先述したように、ひとり酒の時間は完全にひとりのもの。この貴重な機会を利用して知識や教養を深めることはとても有意義だし、時間を有効に活用していると言うことができるだろう。お酒を呑んでリラックスした状態にあると思うので、ビジネス本などよりは短編の小説やエッセイなど、気軽に読めるものが良いかもしれない。味わい深い紙の本がもちろん気分なのだが、私はスマートフォンのKindle Unlimitedアプリで代用してしまうことも多い。どんなに分厚い本でもスマホ以上の重さになることはないし、そのとき読みたい本を気軽にダウンロードして読めるので使い勝手も良い。ビジネス本、自己啓発本、小説などに加え、漫画や雑誌も対象書籍であれば定額読み放題なので、興味があれば試してみるのもいいだろう。
ひとり呑みの時にやること⑦「オーディブルに没頭する」
オーディブルとは、Amazonが提供している書籍の朗読サービスのこと。市販の書籍の内容をプロのナレーターなどが読み、それを音声データとしてスマートフォンで聞くことができるのだ。と、文章にまとめてしまうと大したことないように思えるかもしれないが、これはとても有益なサービスだと実感している。酒場ではもちろんなのだが、電車やバスに乗っているとき、歩いているとき、家事をしているときなどでも「ながら読書」をすることが可能になる。目が疲れず、自分で文字を読むより早く一冊を聞き終えることができる。活字離れなどと言われる昨今だが、オーディブルがあれば読書がより気軽に、より身近になるのではないかと思っている。以前、このオーディブルを利用して酒場で太宰治の「人間失格」を聞いていたときは楽しかった。自らを廃人に追い込むほど自堕落を極めた主人公、その生き様に自分を重ねながら酒を呑む行為は、いつもにも増して背徳感を感じさせてくれて、何だか新しい体験ができたような気がしたものだった。
ひとり呑みの時にやること⑧「音楽に溺れる」
お酒と音楽の相性について、いまさら多くを語る必要はないだろう。好きな音楽を聞きながら好きなお酒を呑み、好きなおつまみへと手をのばす。音楽好きにはなおさら、そうでない人にとっても楽しい時間の過ごし方となるのではないだろうか。サブスクの流行によって、数え切れないほどの楽曲がいつでも聴けるような環境ができあがった。これによってさまざまな弊害はあろうが、いち音楽好きとしては嬉しいことのほうが多いように感じる。酒場で音楽を聴くのなら、私のオススメは「中学生くらいの時に聴いていた音楽」である。いつも聴いている音楽や最新の曲ももちろん良いのだが、サブスクなどを利用して、青い十代のころに熱狂していたけどもう何年も(あるいは何十年も)聴いていない音楽を酒場で聴き直してみると、なんとも言えない甘酸っぱい感情が沸き起こってくるものだ。この曲に熱狂していた頃の思い出や感情も蘇ってきたりするので、その時代に悪い思い出を抱えている人でなければ、ぜひこの聴き方を試してほしいと思う。酒場はつねにガヤガヤしているので、AirPodsのように優秀なノイズキャンセリング機能を備えているイヤホンなら、さらに音楽とお酒を楽しむことができるだろう。
自由に気ままに、お酒を楽しもう
以上が、私が酒場で実践しているいくつかのことになる。もちろん上記以外にも、スマホでSNSやニュースをチェックしたりといったことはやっているが、それらはあえて項目として挙げる必要もないだろう。何度か書いているけれど、酒場では完全にひとりになれるし、お酒によってちょっと感情が高ぶったりセンチメンタルになったりするので、自分の感性に訴えたり、過去の思い出に浸ったりできるような作業と相性が良いのかなと勝手に感じている。他にもこんな楽しみ方がある、みたいな、酒場の猛者のみなさんのご意見も伺ってみたいところだ。