歌舞伎町と聞いて、親愛なる酒呑みの皆さんは何を思い浮かべるだろうか。東洋一の繁華街?眠らない街?欲望うずまく街?どれも正解かもしれないし、どれも表層的かもしれない。その規模の大きさや店舗数の多さから東洋一の繁華街などと呼ばれるのはわからないでもないが、それなのに歌舞伎町に対する私の勝手なイメージは「私たち酒呑みが満足できるまっとうな酒場が極端に少ない」というものである。酒が呑める店はごまんとあるのだろう。しかし、その多くが大手資本による店であったり、若者などライト層向けの店であったり、異性との交遊を目的とする店であったりと、私たちが足を踏み入れるには躊躇してしまうものばかりなのだ。そのため、新宿で呑む機会は多くあっても、歌舞伎町で呑む機会はほとんどない、ということになってしまうのである。ところが、やはり根気よく探せばお宝は見つかるもの、歌舞伎町にも酒呑みの希望の星と呼べる店は存在する。それが今回紹介する、やきとりの「萬太郎Jr.」である。
ギラギラのネオンと一線を画したやきとり店「萬太郎Jr.」
新宿歌舞伎町はさくら通り、新宿駅から歩くとそろそろ歌舞伎町の奥地に入ってきたなという趣の一角、雑居ビルの2階に、やきとりの人気店「萬太郎Jr.」はある。階段を登り店内へ踏み入れると、外のギラギラとしたネオン街とは一線を画した、大衆的で落ち着ける雰囲気にあふれている。もともと、西武新宿駅近くに「萬太郎」という老舗のやきとり店があり、萬太郎Jr.はその支店という位置づけだ。夕方5時のオープンというから5時5分ごろに暖簾をくぐったのだが、なんと先客が3組もいた。人気の証なのか、実はもっと早くから営業しているのか、謎は解明されないままである。
やきとりを中心に「とりあえずなんでも美味い」がそろう
萬太郎Jr.の定番メニューは、店の看板にも大きく描かれているとおりのやきとりで間違いない。職人が毎日店内で仕込んでいるという新鮮な肉を、備長炭でジューシーに焼き上げている。これは楽しみで仕方がない。また豚も牛も、その他の一品料理も、いろいろ試してみたいメニューが目白押しだ。
いろいろ光ってたりピントが合ってなくて申し訳ないが、ドリンクメニューがこちら。サッポロラガーとキリンの瓶ビールが用意されているところがポイント高し。そして後述するが、都内では希少な樽生ホッピーを外すわけにはいかないだろう。
あつあつのやきとりを、樽生ホッピーで流し込む贅沢
この日は私ひとりのソロ活動ではなく、珍しく友人たちとの宴。全員そろうまでとりあえず、の生ビール(500円)。黒ラベルの樽生、やっぱり生ビールならこれが好きかなあ、なんて5000回目くらいの再確認。
おつまみの先陣をきったのはポテトサラダ(330円)。柔らかくふわふわしたタイプのポテサラ、けっこう好みかも。こういう店のポテサラって、どうしていつも美味しいんだろう。
続いてやって来たモツ煮込み(440円)。よくある味噌味ではなく、塩味のさっぱりした一品。それでいて旨味がしっかり詰まっていて、他の店にはない美味しさかも。
サッポロからのサッポロ、生ビールからの赤星(サッポロラガービール・大瓶・620円)で、気分がどんどん加速していく。そしていよいよ、お待ちかねのやきとりが卓上へ。
この日は人数も多かったため、やきとりの全7種(もも・砂肝・ねぎま・つくね・かわ・ぼんじり・手羽先)と、さらに串焼き野菜のししとうとしいたけを、すべて2本ずつオーダーすることに。注文時に当然タレか塩かの好みを聞かれたのだが、種類の多さから店員さんが機転をきかせてくれ「こちらのオススメで焼くこともできますが」と提案してくれた。私たちは元気よく「それでお願いします!」と答えたのだが、これが大正解。自分の好みでタレ塩を注文することはもちろん良いのだが、時にはお店のオススメに乗っかってみるのも悪くない。お酒がどんどん進んでしまいそうな甘辛いタレで焼かれたもの、素材の味が生きるきりっとした味わいの塩で焼かれたもの、それぞれの素材がベストな味で提供されたように思えた。以前の記事で私は「タレ塩は部位ごとに最適を選ぶべき」と主張したわけだが、そこから一歩踏み込んで、お店のオススメに従うという作戦もかなり有効だと感じた。それにしても、人気やきとり店のやきとり、これはクセになっちゃうというものですよ。
やきとりによってビールがあっさりと底をついたので、萬太郎Jr.のもうひとつの目玉、樽生ホッピーをオーダー。この樽生ホッピーが呑める店は歌舞伎町ではここだけ、東京都内でもかなり珍しいというから、心して口へと運ぶ。生ビールよりもさっぱり呑めて美味しい。この店のやきとりのしっかりとした味わいに、非常によくマッチしている気がする。目玉商品であるやきとりを、より引き立たせるために、必然的に選ばれたドリンクなのかもしれない。(ちなみに喫煙可能店なので苦手な方はご注意を)
お酒が進んだせいで、誰が頼んだのかわからない厚揚げ(330円)。ほんのりとついた焦げ目が香ばしい。肉系ばかりでなく、こういった安心できる味が用意されているところが、大衆酒場の魅力なんだよな、と。
歌舞伎町だからこそ必要な、安らげる憩いの酒場へ
何度も触れているように、萬太郎Jr.は歌舞伎町の奥地にある酒場である。しかし店内を見渡してみると、およそ歌舞伎町とは無縁そうな、いつもの大衆酒場にいるような、いわゆる普通の人々で埋め尽くされている。それもそうだよな、と思う。いくら歌舞伎町だからといって、ギラギラした人ばかりが歩いているわけではない。かく言う私も、歌舞伎町住民とは程遠い人種であり、ネオンのギラギラを避けるかのように萬太郎Jr.へとたどり着いた。そう、歌舞伎町にも普通の人はいる。そして彼らには、萬太郎Jr.のような酒場が必要なのだ。ギラギラしている街だからこそ、心の底からくつろげる萬太郎Jr.のような店は貴重なのだ。この店のおかげで、踏み入る機会の少なかった歌舞伎町へ赴く回数が増えそうな気がする。そしてこの街で、まだ見ぬ憩いの酒場を探してみたくもなった。
店名/萬太郎Jr.
住所/東京都新宿区歌舞伎町1-10-5 エビス会館2F
電話/03-3207-1780
営業時間/17:00~23:00
定休日/日曜日※本記事は筆者訪問日(2022年8月)時点の情報をもとに作成しています。
※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があります。
※充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いします。
※飲酒は20歳になってから。お酒は楽しく適量で。